Junichi Miyazawa,
"Glenn Gould: String Quartet, Op.1 (program note)

グレン・グールド:弦楽四重奏曲作品1
宮澤淳一

<作品解説>



『Glenn Gould: String Quartet, Op.1
performed by The Symphonia Quartet
Columbia ML 5578 / MS 6178 (LP, rel.1960)
CBS/Sony (Tokyo) 25AC 1609 (LP, rel.1982)
CBS/Sony (Tokyo) XBDC 91008 (CD, rel. 1989 not for sale)
グールドの監修の下に1960年に録音・発売された


十代の頃から作曲家を志していたグレン・グールド(1932‐1982)が残した唯一の本格的な音楽作品。すでにピアニストとしてデビューし、知名度を上げつつあった1953年4月から1955年10月にかけて作曲、翌年5月26日にモントリオールにてモントリオール弦楽四重奏団によって初演、同年ニューヨークのバーガー&バークレイより出版された。また、1960年には作曲者の監修でレコードも制作されている(シンフォニア弦楽四重奏団)。

  長大なソナタ形式による単一楽章で、以下の4つの部分が続けて演奏される――(1) 「ハ‐変ニ‐ト‐変イ」の4音から成る動機(第1主題)に基づく導入部と提示部、(2) 第2主題の現われる展開部(ロ短調のフーガ)、(3) 対位法的書法の続く再現部、(4) 主題の直接的な引用を周到に回避した長大なコーダ。

  当時としては「時代遅れ」であった後期ロマン派から初期シェーンベルクを思わせる語法と様式に基づき、全体として自己陶酔的な情感のあふれる作品となっている。なお、これはヘ短調で書かれているが、グールドによれば、この調性は「錯綜と安定、高潔さと嫌らしさ、灰色とうっすらとした色合いとのあいだに」位置し、自分の性格を表わしているという。

  この作品は「作品1」であったが、「作品2」は現われず、その後のグールドは合唱曲《じゃあフーガを書きたいの?》のような戯作的な作品を若干残したにすぎない。むしろグールドの創作意欲は、人声を使った新しいジャンル「対位法的ラジオ・ドキュメンタリー」の探求へと転化していった。

  今回の日本初演は、本年(1998年)にショットより新たに出版された校訂譜による。


N.B. 本稿は、1998年11月11日(水)にカナダ大使館シアターで行なわれた「日加文化交流シンポジウム グールドと漱石の『草枕』」のプログラムに寄せたもの。当日、グールドの弦楽四重奏曲が日本初演された。演奏はこの初演のために編成された「アンサンブル・コンテンポラリー」(中谷郁子<vn>・井崎真理<vn>・青木紀子<vla>・諸岡由美子<vc>)。

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