Junichi Miyazawa,
review of Akira Asai,
Kanada senjumin no sekai [The World of Canatian Natives]
(Tokyo: Sairyusha, 2004),
Newsletter no.71 (The Japanese Association for Canadian Studies, March 2005): 9-10.


カナダ先住民の世界
インディアン・イヌイット・メティスを知る
宮澤淳一

<書評>
浅井晃著
『カナダ先住民の世界――インディアン・イヌイット・メティスを知る』 
彩流社,2004年6月・428頁,本体価格4,800円.
『ニューズレター』第71号(日本カナダ学会,2005年3月):9-10頁


昨年(2004年)は、カナダ先住民について学び、考えるための著作が2冊、同時期に出た。ひとつは、公害と環境破壊に苦しむオジブワ族に焦点を絞り、その現状を訴える、あん・まくどなるど、礒貝浩共著『カナダの元祖・森人たち』であり(本号 <書評1> 参照)、もうひとつは、カナダ先住民全般の基礎知識を整理し、その世界への案内書の役割を担う、浅井晃著『カナダ先住民の世界』である。



  著者の浅井晃(本会会員)は、主著に『現代カナダ文学』(こびあん書房、1985年)を持つ、日本のカナダ文学研究の先駆者であり重鎮である。1970年代、研究に携わり訪加するようになった著者にとって、先住民の存在は姿の見えない「マイナスイメージ」でしかなかったが、80年代になると、その姿は「まるで隠し絵が浮き出てくるように、私の前に現われてきた」という。著者はそれに応え、「先住民の実像」をつかむべく、旺盛な資料調査をするばかりか、カナダ各地を踏破し、「知る」プロセスを深めた。『カナダの風土と民話』(こびあん書房、1992年)、『トーテムポール世界紀行』(ミリオン書房、1996年)と続いた著作は、著者の文学的関心が民俗学的関心へと拡がった成果であったが、新著は、先住民をめぐって、政治、社会、歴史、産業、教育、宗教、文化を横断する、さらに大きな仕事となった。



  本文は全部で11章から成る。第1章「定義・起源・人口」では、まず、1982年カナダ憲法に従い、「カナダの先住民」 (aboriginal peoples of Canada) をインディアン、イヌイット、メティスの3つと捉え、「バンド」「居留地」「首長」「族長」等、それぞれをとりまく基本用語の整理をして各論の準備を整える。その上で、カナダ各地域の個々の民族集団とそれぞれの文化的特徴がきめ細かく紹介されていくのが第2章「民族グループと伝統文化」であり、それらの文化的多様性に改めて驚かされる。



  第3章「白人との出会いの歴史」は、大航海時代や毛皮交易時代に始まり、入植や隔離・同化政策を経てきた白人と先住民との交渉の通覧である。<pp.9/10> 資料は乏しいながらも、先住民側の声を取り入れようとする著者の真摯な姿勢がみられるが、それがさらに説得力を持つのは、これ以降の章であろう。第4章「変わりゆく先住民社会」では、政府の保護政策が裏目に出た居留地とバンドの現況と諸問題(貧困、文化的荒廃等)が描かれ、第5章「自治への道」では、土地権益請求運動等、各地の先住民が自治を求めて連邦政府や州政府と交渉や係争をする具体例が記される。それらの深刻さを端的に語るものとして、オカ事件(1990年)等、80年代後半から90年代にかけて武装した先住民の若者たちが各地で起こした事件の数々を検証することも著者は忘れないし(第6章「武装蜂起事件簿」)、現代産業の進出と環境破壊によって衰退していく漁猟や狩猟等、先住民の伝統的生活への言及も果たす(第7章「産業と環境」)。



  多文化主義政策を掲げるカナダで、ますます再考が求められているのが文化的根源に関わる教育と宗教である。第8章「教育」では、かつての寄宿学校制度の顛末に加え、先住民教育の新たな動きがカナダ社会の変化との関係で扱われる。第9章「宗教」は、先住民の信仰の実態も触れられるが、読者を魅了するのは彼らの汎神論的な世界観を垣間見る各地の神話・伝承や伝統的な祭礼・儀式の詳述であろう。そして、やはり、著者の本領発揮は第10章「文学」である。各地の口承文学の紹介に始まり、植民地時代に教育を受けた先住民の動き等を経て、現代の先住民作家の台頭が生き生きと描かれ、個々の作家が具体的に語られていく。またイヌイット文学の紹介も興味深いし、第11章「芸術」での美術、音楽、演劇、映画各分野の多くの先住民アーティストの紹介は便覧的な役割を担う。



  豊富な図版、資料、文献目録を伴う本書は、カナダ研究者やカナダに関心を持つ者が先住民に関して心得ておくべき諸分野の知見を総括しており、先住民の存在を「プラス・イメージ」に変換させるに十分な、良質の入門書・啓発書である。本書を読んだあとでは、日本でも紹介の進むクリー族出身の劇作家トムソン・ハイウェイの一連の戯曲や、2003年に日本公開されたイヌイット映画『氷海の伝説』(2001年)などの世界も、精彩を増し、いっそうの現実感をもって体験できよう。 



N.B. 再録にあたっては、改頁箇所を記載してあります。

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(C) 2003-5 Junichi Miyazawa

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